【DROMI特別対談・前編】映像制作のプロが語る「絵コンテ」の本質
映像制作の現場でデジタルツールの導入が加速する中で、プロのクリエイターはどのように理想の映像イメージを共有し、クリエイティブを加速させているのでしょうか?
その答えを探るべく、映像の最前線で活躍するお二人に集まっていただきました。テレビ局出身のキャリアを持ち、機材への深い知見から「レンズマイスター」の肩書きをも持つ撮影監督の太田黒哲氏。そして、米国の大学で脚本を学び、現在は国内外で評価を高める松本サキ氏です。
日本最大級の放送機器展「Inter BEE」での出会い以来、互いの才能を認め合っていた両氏。今回は、映像制作の根幹を支える『絵コンテ』の価値から映像に込める思想まで、お二人の視点が交差する対談を前後編でお届けします。
登壇者プロフィール

クリエイティブの根幹を形作る、それぞれの歩み
ーまずは、お2人のバックボーンをお聞かせください
松本:私は高校卒業後にアメリカへ渡り、大学で4年半、脚本専攻として映画の基礎を叩き込みました。帰国後は音響制作会社で吹替版の音響監督として、キャスティングや演出を担当し、世界各国の多種多様な作品に触れてきました。
しかし、やはり自分自身の作品を一から生み出したいという想いが強くなり、2017年に独立しました。現在は短編映画やMV、企業VPなどを中心に活動していますが、近年はカメラメーカーの新商品プロモーションを兼ねた映画制作なども多く手掛けています。
私の立場は監督・脚本ですので、企画が決まるとまずは脚本執筆から始まります。決定稿になるまで何度もリライトを重ね、自分のイメージを全ての部署が理解し、一貫した世界観を作れるよう指針を示す役割を担っています。

太田黒:僕は20代の頃、地元熊本のテレビ局で情報番組のディレクターを3年間やっていました。退社後にフロリダの映像学校へ留学し、卒業後は奈良橋陽子さんのもとで5年半、キャスティングの仕事を経験しました。33歳で独立して、ようやく本来やりたかった撮影の仕事を始めたという経緯があります。最初はMVが中心でしたが、次第に大型商業映画や日本と海外の合作映画など、さまざまな現場に携わるようになりました。
最近では「レンズマイスター」として機材展示会でのディレクションなども行っています。自分自身で名乗っているわけではなく、レンズ好きがこうじて周りの皆さんからそう呼ばれるようになりました。ただカメラを回すだけでなく、レンズが持つ表現力を引き出し、撮りたい映像のイメージに最適なレンズを他の撮影監督に提案するようなこともします。

僕自身は撮影監督という立場なので、台本がある程度形になってから関わり始めることが多いですね。監督の演出意図を汲み取りながら、レンズやカメラワークを通じて、頭の中のイメージを具体的な映像へと翻訳していくのが仕事です。

理想の映像に至るまでの道のり
ー脚本ができてから撮影に入るまで、現場ではどのようなプロセスを経てイメージを固めていくのでしょうか
松本:脚本が完成に近づいた段階でプロデューサー、撮影監督、照明、美術、助監督といったメインスタッフと共にロケハンに行きます。これは、自分の思い描く世界観がその場所で構築できるのか、実際に撮影環境として成立するのかを確認する、非常に重要なステップです。
太田黒:ロケハンでは現場のスペースはもちろん、機材の置き場所や電源の容量、ブレーカーの位置まで細かく確認します。
さらに「Artemis Pro」というアプリを使って、スマホ一つで理想の画角やカメラワークを確認し、日の出から日没までの太陽の角度まで写真のメタデータとして記録します。
これによって「何時にどこまで太陽光が入るか」を正確に把握でき、後の香盤表作成が非常にスムーズになるんです。

松本:ただ、このロケハンを含めた準備段階での撮影イメージ共有には課題もあって。以前は手書きしたコンテ、またはペンタブで書いたコンテをスクリーンショットしてPDFにまとめるなど、アナログとデジタルが混在した非常に非効率な手法をとっていました。初期段階で得た、自分の強烈なイメージをスタッフにどう具現化して伝えるか、常に試行錯誤していましたね。
太田黒:僕も、言葉や文章だけでは複雑な特機ショットの動きを伝えきれないもどかしさを感じていました。例えば、ロケハンに同行していないスタッフに現場の状況を含めたイメージを共有するのは難しいですよね。ただ、この共有の難しさを突破するために使っているのが、今回の本題でもある「絵コンテ」です。
余白がチームの想像力を広げる
ー実際に絵コンテを描く際、意識していることはありますか
太田黒:実は、僕は画を描くこと自体あまり得意ではありません。だからこそ、コンテは細かく描き込みすぎないようにしています。フレーム内の人物がどれくらいのサイズで、背景がどの程度映るかが分かる程度で十分だと思っています。むしろ描き込みすぎたり写真を多用したりすると、各部署の専門家たちの想像力を限定してしまう気がするんです。
絶対に必要な要素だけを描き、あとのクリエイティブはチームのメンバーに委ねることで、結果的に良い作品が生まれると考えています。

松本:私も基本はざっくりとしたラフ画にして、背景や人物の表情など、最低限のサイズ感やアングルを意識して描いてます。
物語にとって重要なプロップ(小道具)については、コンテの横にコメントを添えて各部署に周知するようにしています。また、ライティングが演出の鍵となるシーンでは、色を変えたり筆圧を変えたりして陰影を表現することもありますね。
プロの技術というのも確かにありますが、自分の頭の中にあるイメージを形にすることが何より大切だと思います。特に、映像の世界に飛び込んだばかりの方は、あまり難しく考えずに、まずは「描いてみる、作ってみる」という気軽な一歩から、ぜひ踏み出してみてください。

ー太田黒さん、松本さん、ありがとうございました。
後編では、お二人が語る「絵コンテ」が、実際の現場でどのように力を発揮するのか、その具体的なメリットに迫ります。
プロフェッショナルが絵コンテに込める真意と、効率化の先にある表現の追求について、深く掘り下げていますので、ぜひ【DROMI特別対談・後編】もご覧ください。
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