【後編】オウンドメディアで自己開示し、会社のリアルを伝えていく

セミナーなどを通し、フロー型の情報発信を行ってきたフェンリル。今年から『ナレッジ』というストック型の情報発信をはじめます。「企業活動やパーパスを“自分たちの言葉”できちんと伝えていきたい」「読んでくださった方々には、フェンリルに何かしらの共感をもってもらいたい」そのような熱い想いで『ナレッジ』をお届けしていきます。
前回に引き続き、日本マクドナルドやアップルジャパンのマーケティングディレクターとして活躍された、河南順一さんをゲストにお迎えし、フェンリルのスタッフとの対談をお届けします。
「オウンドメディアの役割」や「フェンリルが取り組む動機」をきちんと言語化する。それが、この対談をお届けする目的です。

作って、パッケージして、届ける

フェンリルはモノづくりに対する「こだわり」がとても強いと感じますが、皆さんに知ってほしいバリューとは、どのあたりでしょうか?

坪内 フェンリルは、アプリを開発する会社だと認識されていると思いますが、実はアプリだけを作る会社ではないんですね。河南さんも仰ったように、企業が意図的に作ったタッチポイント以外のところに、きっと貴重な体験が潜んでいると私も思います。
アプリなんかまさにそうですよね。同じデザインや機能のものを操作していても、使い方は人それぞれですし、個人個人にストーリーがあるわけじゃないですか?そう考えると「単にアプリを作ってるだけじゃないよね?」と。

「いかに使いやすいものを作るか?」ということは、もちろん重視しています。そこから、人を中心に置いたライフスタイルやストーリーというところまで視野を広げ、より良い体験のためにさまざまなタッチポイントをデザインしている」と考えています。

坪内 陽佑
フェンリル株式会社 デザインセンター 副センター長
ダブルクリック、サイバーコミュニケーションズを経て、フェンリルに入社。フェンリルでは、デザイン部門のマネジメントを行うとともに、サービスデザインの考え方を軸に、さまざまなプロジェクトにおける価値の総和を増大させるべく活動中。HCD-Net 認定人間中心設計専門家。

読み手に「伝わる」には「共感」が欠かせないマインドセットになると思います。共感は作り手側が意図して作れるものなのでしょうか?

河南 共感というものは、狙って作れるものではないですよね。刺さるポイントは人それぞれなので難しい。
拙著(※1)にも書いたのですが、アップルの“Think different(※2)”キャンペーンにピンとこなかった人たちというのは、私も含めてアップルでマーケティングをやっていた人だったんです。

米国本社で行われた最初のブリーフィングの時に、「どうやって共感を生むのかな?」と、実は私も思っていたんですよ。文法も正しくないし、“Think different”のCMに出てくるピカソやガンジーなどの偉人たちのなかで、アップルユーザーってだれもいないよね?と、頭で考えたら疑問がどんどん湧いてきました。自分がエモーションで感じようとしなかったから、ピンとこなかった。

河南 順一
同志社大学大学院ビジネス研究科 教授
同志社大学商学部卒業、アリゾナ州立大学W.P. Carey School of Business MBA修了。アップルでは”Think different”を掲げたブランド戦略の展開、マクドナルドではCEOコミュニケーションの一新を担うなど、ブランド再生や企業イメージの刷新を牽引してきた。

河南 しばらくして、10代の少年の父親から「素晴らしい広告をありがとう!」という声が届いた時に、初めて理解できたんです。この少年は、人とは変わっているという理由からいじめにあっていて、自殺まで考えていました。でも、“Think different”のCMを見て「変わってるって良いことだよね!」と、自分を肯定できるようになった。この時、変化をもたらすクリエイティブの威力のすごさを感じたんですね。「一人ひとりを変えていくことで世界が変わる」という、アップルが創設以来掲げてきたメッセージを肌で感じた瞬間でした。

人によって共感できる部分はもちろん異なりますが、理念であったり、実現したい世界を描いてデザインや開発をしている姿を、きちんとパッケージして、読み手の皆さんにお届けすること。それらが読者の脳内でつながった時に、「共感」が生成されるのだと思います。

河南さんの著書「Think Disruption アップルで学んだ『破壊的イノベーション』の再現性」

PRがもたらす効果と本質

『ナレッジ』は、オウンドメディアとして発信していきますが、宣伝とPRって何が違うんでしょうか?

河南 宣伝は、発信する側がお金を払って自分の言いたいことを伝えるペイドメディアですよね。一方で、PRというのは、基本的に第三者に拾ってもらい、自分たちに代わってフォロワーやインフルエンサーに発信してもらう、アーンドメディアになります。宣伝よりもお金は使いませんが、「自分の思惑どおりに発信してもらえるかどうか?」が、大きな違いですね。コントロールできないので、蓋を開けてみないと分からない。

PRの最大のメリットは、第三者にエンドースしてもらえた場合、そこでグッと信頼度が高まります。企業が発信するよりも、メッセージの訴求力が強くなるから必要とされているんですよね。

ナラティブ(物語的)などもPRの部類に入り、そこからペイドメディアの広告展開になるのでしょうか?

河南 ナラティブはPRも広告も両方の展開が考えられます。ナラティブって、何年か前から使われ始めた新しい考え方だと思われるかもしれませんが、医療業界などでは古くから使われていた概念です。ナラティブを初めて聞いた時に「“Think different”そのものだな」と、感じました。

「世界を変える人たちの道具を提供する」というメッセージが、アップルにはあったんですね。でも、当時はアップルの存在感が薄れていた頃で、誰も投資をしてくれる状況ではありませんでした。ユーザーも離れ、あと3週間で倒産という危機に陥っていたので、誰もアップルのことを信じられなかった。

そこで、「世界を変えていく」という創設時に掲げた原点に回帰し、アップルの立ち位置を再確認したという宣言をしたんです。始まりは、自分たちのブランドキャンペーンで広告を使った宣伝だったんですが、それが共感を得たことでPRの効果が増幅したんですね。アップルが想像した以上にインパクトが大きかったんです。

オフェンスのPRがある一方で、ディフェンス部分である「危機管理」のPRは、どのようなところを大事にすべきでしょうか?

河南 フェンリルさんの場合は、ガバナンスの体制(下図)がきちんとありますし、それが基本であり、後々その重要さが出てきます。コーポレートガバナンスの仕組みが活きてくるのは、個々がどれだけの意識を持っているのかによって大きく変わります。

また、企業文化も同じくらい大事だと思います。理念やポリシーなどの考え方が、ただのお題目になってしまっているか、きちんと皆が意識して「自分ごと化」されているかという部分でも変わってきます。

フェンリルのコーポレートガバナンス体制

嶋田 河南さんも、ご自身の著書でピーター・ドラッカーの言葉を引用されていましたよね。「企業文化は戦略をも凌駕する」という言葉。この『ナレッジ』は、対外的に発信するオウンドメディアですけれども、社内の人にも価値基準を持ってもらいたいという願いが込められています。
『ナレッジ』で語っていることが、「私たちフェンリルなんだ」という意識が組織にも浸透し、各々が活躍する場所で体現していってもらいたいんです。

嶋田 時久
フェンリル株式会社 取締役/最高グロース&イノベーション責任者
マッキャンエリクソンで、外資系企業のマーケティング・戦略立案・プロジェクトマネジメントを経験した後、マッキャンエリクソン台湾に赴任。帰国後は、営業統括本部長、取締役大阪支社長を歴任。2019年にフェンリルへ移り、事業戦略や中国事業の立ち上げを牽引している。

「変わりたい」と、思っている企業の変革装置に

フェンリルも今までやってこなかったオウンドメディアに挑戦します。人や企業が変革する時に、何が必要だと思われますか?

嶋田 提案することは、とても勇敢な行動だと思うんですよ。あらゆる方向から叩かれるわけですから。
その叩かれることに怖気づいてしまう人が多いので、経営会議でも提案してくる人は自ずと限られてしまう。勇敢な人は、「叩かれても良い!」と思って提案してくるんですよ。企業や組織が変わろうとする時に、挑戦するスタンスや気概がとても重要になってきます。

河南 自分自身が抵抗勢力になっている場合があるんですよね。「面倒くさいな」とか「この案件はちょっと厄介だな」という気持ちが湧いてきたら、私は自分の殻を打ち破ることからはじめます。
先ほど、嶋田さんが仰った勇気を持つというところにつながりますね。怖さとか、リスクを背負ったとしても、あえてそっちを選択するという気概です。

「変わる」というと、すごい大きなものをイメージしがちですが、先ず第一歩を踏み出すことが重要だと思います。マクドナルドにいた頃の話ですが、社内の決起集会で、当時の社長(サラ・カサノバ氏、2022年現在、日本マクドナルド会長)と、どうしたら社内を良い方向へ変革できるのか?という話をしていました。

こういう戦略とストーリーで、この状況を乗り切りましょうという提案をしたら、ボコボコにダメ出しを食らったんですね。正直、結構なダメージを負いました。「このへんで戦うのは止めておいた方がいいのかな?」という考えが頭をよぎりましたが、「最高のものにしてみせます!」と、逃げ腰になっている自分自身を変えるためにも、あえて宣言して取り組んだことがあります。そうすると、助けてくれる人も現れて人の和が広がり、変わっていく原動力になりました。



坪内 結局、熱意って自分で火を点けるしかない。他人から焚き付けられることって少ないと思うんですよ。
大義を持って、自分自信を奮い立たせていく。『ナレッジ』を読んでくださる方のなかにも、「会社でこれがやりたい」「この課題を本当に解決したい」と、本気で取り組もうとしている人がいると思います。
そんな熱い想いをもった担当者がいらっしゃいましたら、私たちも全力で応援させていただきたいと思っています。

嶋田 成熟した企業や組織というのは、硬直化して自社だけでイノベーションを起こすことは難しい。だからこそ、外部の私たちに声をかけていただき、新しい視点、見たことない視点から一緒に変えていく。そして、できあがったものを見て社内が「おっ!」となって、より変わっていくという。そんな変革装置の役割を担いたいと思っています。

『ナレッジ』をきっかけに、私も社内外で変革の一端を担いたいと思います。河南さん、貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

本記事の執筆者|葛巻 大輔
フェンリル株式会社 事業開発ディレクター
LINEグループ在籍時に、母子手帳アプリのサービスを立ち上げてキッズデザイン賞を受賞。ウェブ制作会社を経た後、フェンリルのデザイン部でシニアディレクターを務める。現在は、事業開発ディレクターとしてオウンドメディアの編集などを担当。同志社大学経営大学院に在籍。




※1.河南順一|2020.「Think Disruption アップルで学んだ『破壊的イノベーション』の再現性」.KADOKAWA.
※2.“Think different”|米アップル社が、1997年に始めた広告キャンペーンのスローガン。

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