製造業におけるAIとDXの活用とは

アメリカのAitomatic社はインダストリー4.0におけるAIスタートアップ企業のグローバルトップ10に選出され、現在世界のIT企業や機関投資家から注目を集めています。フェンリルはAitomatic社と共に、AI技術と製造業のDX化における課題解決を図る技術を融合して可視化するサービスを提供できるようになりました。
その協業関係を一層強化するために、フェンリルはAitomatic社に資本出資しました。今回のパネルディスカッションは、この協業関係を構築した4名によって、日本の製造業のDX化の課題は何なのか?そしてAitomatic社とフェンリルはAI技術によってその課題をどのように解決していくのか?を話し合っていただきました。

AIをDXと社会課題解決の糸口に

昨今、日本の製造業においてDXが急速に進んでいます。しかしながら、事業ベースで見るとデジタル化を進めているものの、AI技術の活用方法はまだうまく見いだせていないと感じます。日本の製造業におけるDX推進の課題があれば教えてください。

平山(Aitomatic) 日本では製造業のDXが加速しています。かつてはデジタライゼーション、つまりアナログで管理されていた書類のデジタル化が進んでいましたが、近年はデータをどう活用していくかということを考えている企業が多くなってきました。
日本の製造現場では、高度なオペレーションや熟年技術者の勘が製品の質を高めるとされてきました。これは「職人技」とも呼ばれ、ものづくりの品質を維持しています。

昨今は少子高齢化により、熟年の職人が定年退職を迎え、後継者不足や若手の育成が課題となっています。職人技という暗黙知を、見える知識である形式知にできれば、日本の社会課題を解決できるのではないか。そのような観点からAIを活用したナレッジの可視化を推進しています。誰もが従来の品質規格と人間が持つ職人技(暗黙知)を融合した高い品質を維持できる仕組みになると考えています。

平山 好邦
Aitomatic Inc. アジア・パシフィック代表
パナソニック株式会社をはじめ、海外事業の研究開発やR&D経営に約40年従事。シリコンバレーのスタートアップとともにAIの新規事業立ち上げに携わる。オープンソースでのAI開発戦略を取るAitomatic Incで活動。2022年より日本を拠点としてAitomatic Incでアジア・パシフィックオフィスを立ち上げ、製造業におけるAI技術の推進を提唱している。

高木(フェンリル) 製造業の現場でよく課題として挙げられるのはIoTのデータを取得・管理しているものの、業務効率の改善につながっていないということです。マニュアルをデータ化するのも大切ですが、それだけだとデータ化の際に暗黙知が欠落してしまう。製品の品質を維持・向上するには、経験年数に関係なく技術者が同じクオリティで製品を製造・管理できることが差別化につながると思います。

高木 健次
フェンリル株式会社 執行役員
パナソニック株式会社で、インターネットやモバイルネットワーク関連の研究開発、米国シリコンバレーでのR&D運営に従事した後、堅牢パソコン(タフブック)事業における新規事業開拓や海外営業責任者を歴任。2020年よりフェンリル株式会社の開発部門責任者として共同開発事業を牽引。現在、製造業を始めとしたインダストリー業界の事業効率を改善するためのAI SolutionとしてAItomaticとの協業を推進中。

海外の製造現場では、データの可視化が進んでいると言われていますが、日本と異なる特徴はありますか。

平山(Aitomatic) 製造業のDX化は、日本よりも海外の方が進んでいると感じます。アメリカでは、製造工程のマニュアル管理はもちろん、品質管理の規格もデータ化されています。さらに、各企業で基準の最適化を共有しているケースが見受けられます。一社の独自技術ではなく、国全体で協力して技術の向上を推進する動きが日本とは異なりますね。

だからと言って、日本企業が遅れているわけではありません。職人技という暗黙知を見える知識である形式知に変換できれば、各企業で努力してきた品質を独自の知財として保有でき、製造効率の向上も可能です。DX化だけでなく、AI技術の活用が次世代の製造業の品質の改革につながると考えています。

形式知と暗黙知のイメージ
『世界標準の経営理論』入山(2019)をもとにナレッジ編集部で作成

暗黙知をデータ化する

Aitomatic社は、製造業の暗黙知を形式知にするための技術として「aiVATM」を開発しています。この特徴について教えてください。

クリストファー(Aitomatic) わたしたちが開発したaiVATMとは、物理的な世界をデジタル化する技術です。職人の技術を丁寧にデータ化することで品質規格や生産ロスを予測します。先程の平山さんの発言にもあったように、日本の製造業で長年培ってきた職人の技を可視化することができれば、日本はもちろん、中国やアメリカなど、さまざまな国へ品質の高い製造技術を提供できます。

その技術は大きく2種類のデータを蓄積します。
1つは、マニュアルや検査表といった一般的な書類のデータです。これをデータ化することで製造工程や規格を可視化できますが、これだけだとデータ化することに過ぎません。
もう1つは、「定性データ」です。実際に熟年の職人の方にインタビューを行い、業務の勘や製品に対する思いをデータ化します。つまり、定量と定性のデータを複合的に組み合わせて人工知能として生成することにより、各企業に特化した製造に関するナレッジが精度高く抽出される仕組みになっています。

Christopher Nguyen
Aitomatic Inc. CEO
スタンフォード大学を卒業後、インテルで初のフラッシュメモリーを開発後、ベトナムで初となるインターネット接続の推進に従事。その後、GoogleでGmail、Googleアプリの初代エンジニアリングディレクターを担当。2022年にアメリカのシリコンバレーでAitomaticを設立。人の専門知識を活用したAI技術の実装を基に、産業用AIの先駆者としてビジネスプロセスを合理化している。

昨今話題になっているChat GPTなどの対話型AIと、ヒューマンスキルを可視化するAI技術ではディープラーニングの手法に違いがありますか?

平山(Aitomatic) Chat GPTをはじめとした対話型AIを実装するには、1,700億を超える大量のビックデータが必要だと言われています。対話型AIの場合、さまざまな分野のビックデータを集めて統計処理をしていますが情報の正確さには課題が残るとされています。それに対して、Aitomatic社が推進しているaiVATMは、すでに企業の中にストックされているドキュメントだけでなく、可視化できていない暗黙知をデータとして読み込みます。つまり、データの数よりも「質」が鍵となります。

Aitomatic社のAI技術『aiVATM』の仕組み

クリストファー(Aitomatic) 質の高いデータを読み込むにはどうすれば良いのか。この技術を設計する基になった考え方にOODAループ(Observe:観察、Orient:方向づけ、Decide:判断、Action:行動)があります。

一般的に広く知られているPDCAサイクル(Plan:計画、Do:実行、Check:測定・評価、Action:対策・改善)は各行動の実行と振り返りをすることで改善につなげるための手法です。
一方で、aiVATMはOODAループを採用。採用理由は、データの蓄積だけではなく、AIで生成した回答が間違っていた場合に正しく学習し、適切な知見へ導く概念を取り入れているからです。企業や製造業の特徴に合わせて現場で有用な情報として活用してこそ、AIとDXの推進で業務効率を改善できると考えています。

対話型AIとaiVATMの技術は、どちらが優位という訳ではありません。使い手がAI技術を理解し、適切なものを選択することが、これからのビジネスに必要ですね。

暗黙知をデータ化する

aiVATMが日本の産業、特に製造業の課題を解決することはよく分かりました。では、フェンリルはaiVATMと今後どのように関わっていくのでしょうか?
フェンリルが描くAIと共存する世界について教えてください。

高木(フェンリル) フェンリルは、これまでさまざまな業界のアプリ開発を行ってきました。製造業の観点では、クライアントの製造現場やフィールドでの効率化を図るため、産業用のアプリ開発を手掛けています。私たちが大切にしているのは、デザインと技術の力の融合です。使い続けてもらうにはユーザーの体験に寄り添うプロダクトを考えていかなければなりません。

今後、新たなプロダクトを生み出すには、フェンリルのコアコンピタンスと親和性の高い新たな技術の融合が不可欠であると考えます。今回取り上げたAitomatic社の技術は、製造業の品質改善や後継者問題などの社会問題を抜本的に改善できる可能性を秘めています。
例えば、製品の品質や在庫を管理するアプリに、aiVATMの技術を組み込めば、隣に熟年の技術を身につけた社員がついているかのように適切な判断を1人でできる可能性があるわけです。品質の高さでリードしてきた日本の製品管理技術をAIの力で可視化して形式知とする。そうすれば日本だけでなく世界にも提供できる新たな知財となり、ビジネスを加速できると信じています。

この技術があれば、日本が誇る高品質な製造技術を、海外の製造現場にも提供できるサービスとなる。今後は日本のみならず、海外に拠点を置く日系企業への導入も目指していきます。



クリストファー(Aitomatic) 今後、AI技術を学ぶためにフェンリルとAitomatic社の社員が行き来することもあるかもしれませんね。エンジニアとしてのスキルアップだけではなく、国を超えたビジネス市場を肌で感じられたら、新たなプロダクトの創造が膨らみますね。目下の目標は製造業とAI技術の融合ですが、今後も定量データと定性データを複合的に読み込み、人とAIが共存できる社会を目指していきたいと思います。

今日は皆さんとお話できて、とても明るい気持ちになりました。
aiVATMは日本の製造業だけでなく、AitomaticのAI技術と、フェンリルのデザインと技術の融合で、日本のあらゆる産業を活性化させると確信しました。
近いうちに、さらに進化した新しいビジネスを実現できそうですね。
本日は貴重なお時間をありがとうございました。

本記事の執筆者|嶋田 時久
取締役CGIO 海外事業担当
マッキャンエリクソンで、外資系企業のマーケティング・戦略立案・プロジェクトマネジメントを経験後、マッキャンエリクソン台湾に赴任。帰国後は、営業統括本部長、取締役大阪支社長を歴任。
2019年にフェンリルへ入社し、事業戦略や中国事業の立ち上げを牽引している。

フェンリルは、この度オープンで安全な責任あるAIを推進するための国際的なコミュニティである「AIアライアンス」の創設メンバーにAitomatic社と共に参画することになりました。今後もアプリ開発にとどまらず、新たな技術と融合して新しい価値を提供してまいります。
詳細は、プレスリリース『 フェンリル、AIアライアンスに創設メンバーとして参加』をご覧ください。

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