【前編】ファンの方々と新しい接点をつくる『宝塚歌劇Pocket』アプリ

さまざまなご依頼に合わせて、アプリやウェブのデザイン/開発を手掛けてきたフェンリル。2020年よりサービスデザイン部(以下、SD部)を立ち上げ、ユーザーエクスペリエンス(以下、UX)を重視したサービスの創出に注力してきました。

今回は、伝統と格式を守りながら、新しいことに挑戦し続ける『宝塚歌劇』様のプロジェクトをご紹介します。「劇場の外でも、ファンの方々とのつながりを大切にしたい」というクライアントの思いをどのように表現したのか。プロジェクトに携わったフェンリルの担当者が集まり、企画やデザイン、開発というそれぞれの立場から『宝塚歌劇Pocket』アプリを語ります。

「気づき」から生まれるサービス精神

どのような経緯でアプリ開発の依頼をいただいたのですか?

柴田 100年以上にわたって、華麗なステージでファンを魅了してきた宝塚歌劇の皆さんは、ファンの方々をとても大切にされています。優美で品格のある印象を受けるのも、ファンの方々と共に歴史を刻んできたからだと感じました。

その思いを劇場外に届ける取り組みとして「自分のペースで宝塚歌劇を楽しめるデジタル体験をつくれないか」というご依頼をいただきました。

宝塚歌劇が持つ優美な世界観に、フェンリルが培ってきたデザインと技術の力を掛け合わせ、ファンの皆さまに新しいステージを楽しんでいただけるサービス制作に企画段階から携わりました。

柴田 翼
フェンリル株式会社 デザインセンター SD部マネージャー/プランナー
マーケティング会社でプランナーとして家電関連のプロモーション企画などを経験。2016年にフェンリルに入社し、主にアプリを中心としたサービス企画に携わっている。本プロジェクトでは企画と運用設計を担当。

アプリのデザインや開発に入る前に、さまざまなリサーチをおこなったと思います。調査結果はアプリにどのような形で活かされたのでしょうか?

大西 プロジェクトの全体像を把握するために、まずは現在のファンとの関わり方についてヒアリングから始めました。ファンの皆さまが現在どのように宝塚歌劇を楽しんでいるのかを確認しつつ、より広いユーザーに宝塚歌劇を楽しんでいただきたいという思いをお聞きしました。

それには、長年のファンを大切にしながら、新たに興味を持ち始めた方の心理を理解することが重要です。そこで、ファンの皆さまが宝塚歌劇に興味を持ち始めたきっかけなどを分類して整理し、私たち全員が共通認識を持って目標を定めるという、プロジェクトの基礎づくりから宝塚歌劇のご担当者と共に考えていきました。

大西 まどか
フェンリル株式会社 デザインセンター SD部 UXコンサルタント
人間中心設計思考に基づいたウェブサービスの開発や研究・調査コンサルティングに従事。2021年にフェンリルに入社し、主に新規サービスの受容性評価やユーザーリサーチを担当している。博士(生涯人間科学)、HCD-Net 認定人間中心設計スペシャリスト。

中西 宝塚歌劇を楽しんでいただく機会を増やすために、「劇場の外」でつくられるファンとの接点を見直す必要がありました。

劇場外で公演を楽しむ方法といえば、ブルーレイやDVDなどのパッケージをはじめ、CS放送の専門チャンネルや映画館でのライブビューイングが主流でした。公式ウェブサイトやSNSアカウントでは、公演情報やスターのコメントなどが配信されています。コンテンツは魅力的で、情報量も多いので、それを求めているユーザーにどのように届けるのかが大切になります。

ファンの方々も多様です。ご自身の好きな「組」やスター、ほしい情報の種類といった好みの違いもあれば、年齢やライフステージ、住んでいる場所などの属性も異なります。宝塚歌劇に対する想いも一通りではありません。ですから、この新しいサービスで「自分なりの楽しみ方」を見つけていただくことが大切だと考えました。

プロジェクトの期間中は、コンテンツの整理の仕方からUIの設計思想、宝塚歌劇が表現したい世界観に至るまで、細部にわたって宝塚歌劇のご担当者と話し合いました。大小さまざまな提案と意見交換を重ね、議論を交わしながら、宝塚歌劇と共にアプリのあるべき姿を模索していきました。

中西 弘樹
フェンリル株式会社 デザインセンター SD部マネージャー/アートディレクター
マーケティング会社でデザイナーとして、家電や住宅など耐久消費財のプロモーション企画・制作を経験。2014年にフェンリル入社。コンセプト策定からビジュアル開発まで手掛け、一貫したブランド体験をデザインする。本プロジェクトでは、サービスの企画と設計、アートディレクション、グラフィックデザインを担当。

大西 宝塚歌劇の情報は、毎日さまざまなチャネルを通して発信されています。情報を受け取る楽しさがある一方で、仕事や子育てをされている方にとっては、ほしいと思う情報が流れてしまったり、もっと情報の整理ができるようになりたいと感じる方がいらっしゃいました。

宝塚歌劇を愛しているにもかかわらず、必要な情報を収集しきれていないのだとしたら、ファンの方々にとっても、宝塚歌劇にとっても大きな機会の損失です。

調査結果により、情報がわかりやすくまとまっている要望が高いことがわかりました。これまで散在していた情報を、アプリを通じて受け取りやすくすることはできないか。理想の実現を目指して、検討を進めました。

それぞれの思いが共鳴し合うものづくり

仮説を立てるにも、ファンの皆さまの行動や心情を理解する必要がありますね。デザインや機能に込めた「こだわり」について教えてください。

中西 ビジュアライズする際に心掛けたのは、デジタル空間で宝塚歌劇を身近に感じていただくことでした。アプリ開発に着手する前に、メンバーと一緒に宝塚歌劇の公演を観劇しました。華やかな衣裳や舞台装置をひと目見た瞬間の息を呑む美しさを、アプリのデザインに生かしたいと想像を膨らませました。

宝塚大劇場を象徴する赤絨毯のレッドと輝くシャンデリアのゴールドを基調とし、アプリをタップすると、まるで劇場に足を踏み入れたかのような体験ができるよう意識しました。

宝塚歌劇のスターや劇場の写真を大きく見せ、それ以外の装飾は最小限に抑えることによって、宝塚歌劇の世界観を表現しました。また、演目のあらすじや人物相関図を写真付きで表示することによって、作品に入り込める工夫を加えています。

玉川 アプリはユーザーのペースで宝塚歌劇を楽しむ空間です。情報の見やすさや、好きな「組」が選択できる機能、通知が来る頻度の設定など、ファンの方々が「今」の気分で、ほしい情報を入手できるような動線を設計しました。

ファンの方々は、観劇する公演を選ぶ際に、出演するスターや演目などたくさんの要素の中から絞っていきます。情報選択のアプローチ方法を「あえてひとつに絞らない」ことは、ファンの方々を大切にする宝塚歌劇の信念を具現化した部分でもあります。

玉川 百代
フェンリル株式会社 デザインセンター デザイン1部/ディレクター
Webコンサルタント/ディレクターとして、ホームページ制作を通じたWebコンサルティング業務に従事。2021年にフェンリルに参画し、本プロジェクトではUIデザインのディレクションを担当する。

大西 劇場を彷彿させる配色は一際目を引くデザインとなり、宝塚歌劇の担当者や想定ユーザーの方に調査した段階から好評をいただくことができました。特に配信される情報を自分好みにコレクションできる満足感を評価していただいています。

アプリ本来の機能だけでなく、その先にあるユーザーの心情を動かすものづくりのあり方は、フェンリルが大切にしているサービスデザインの考え方そのものです。

フェンリルのサービスデザインフレームワーク

中西 自分がほしいものを選んだり好きなものを集めるように、アプリではファンが思い思いのかたちで楽しめる、宝塚歌劇をもっと身近に感じられる、そんな体験をつくりたい。そういった思いから、『宝塚歌劇Pocket』というアプリ名を思いつきました。

宝塚歌劇とフェンリルで何度も議論を重ねて、その中から引き出される言葉や思いを紡いでいくと、アプリのコンセプトから名前まで、違和感なく自然な提案につながっていきました。

スターもファンも担当者も一丸となって宝塚歌劇を盛り上げたいという熱い思いと、フェンリルが大切にしているユーザーに寄り添うものづくりの考え方。この共鳴がサービス制作に活かされています。

宝塚歌劇Pocketの主要画面(1)
シンプルでありながら宝塚歌劇らしさを感じるホーム画面、ほしい情報が一目でわかる。

宝塚歌劇Pocketの主要画面(2)
気になったニュースや記事を保存し、興味のあるカテゴリの通知を受け取ることができる。

宝塚歌劇Pocketの主要画面(3)
すっきりしたレイアウトで使いやすく、公演やスターに関する情報が探しやすい。

宝塚歌劇と、ファンの皆さまに寄り添う

今回のアプリ開発から気づいた新たな価値の発見や、展望があれば教えてください。

池田 アプリの機能においては、情報の見やすさや操作性に重点を置いて開発しました。その結果リリース後の評価指数(※1)も高く、中でもビジュアルを大きく使ったインターフェースや、情報のコレクション機能を高く評価いただいております。

宝塚歌劇のブランドやファンを大切にする気持ちを受け止め、アプリの機能として表現できることを考えました。宝塚歌劇とフェンリルが、1つのチームとしてお互いを尊重しながらサービスを構築できたからこそ、ユーザーの心を掴む結果になったのだと思います。

この現状に満足することなく、ファンの方々の満足度アップを目指して、サービスをアップデートしたいと思います。

池田 祐太
フェンリル株式会社 開発センター 開発3部/プロジェクトリーダー
Androidアプリエンジニアから始まり、数多くのスマートフォンアプリの開発に従事。2017年にフェンリル株式会社に参画し、本プロジェクトでは開発全体のプロジェクトリーダーを担当。

柴田 アプリの機能をアップデートしていくためには、ユーザーの声が大切です。アプリは「リリースして終わり」ではなく、ユーザーと共に使いやすいサービスへとアップデートし続けることで、長く愛されるものになります。

ユーザーの声を丁寧に拾い上げて、嗜好性や必要とされる機能の傾向を理解することにより、宝塚歌劇のファンの皆さまに寄り添える存在であり続けたいと思っています。

池田 愛されるサービスであり続けるためには、アプリを使っているユーザーの声と、どのような機能がよく使われているか、どのような情報を求めているのかという、緻密な分析が必要です。

ユーザーがほしい情報と、サービスを提供する側の思いを具体的にすることで、次のフェーズで求められる仮説を立てることができます。これからも宝塚歌劇ファンの皆さまの期待に沿えるように、フェンリルも一丸となって貢献していきたいと考えています。

次回のVol.15[後編]では、アプリのアイコンデザインやプロモーションビジュアルなど、宝塚歌劇の世界観をフェンリルがどのように表現したのかをお伝えします。




※1.『宝塚歌劇Pocket』アプリの評価指数
App Store 4.6 評価 / Google Play 4.9 評価(2022年10月時点)。

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