フェンリルが考えるサービスデザイン

フェンリルには、使いやすいサービスを提供するだけではなく、「愛されるサービスにするためにはどうするべきか」ということまでを包括し、サービスデザインの観点で検討するプロセスがあります。
Sleipnirの開発などを通して培ってきた、独自のフレームワークをもとに、サービスを通してユーザーが受け取る「価値」や「体験」を、どのように高めてきたのか。
サービスデザイン部門を牽引する、デザインセンター副センター長の坪内がお伝えします。

サービスデザインについて

サービスデザインは、「サービス提供者とステークホルダー間の持続的な相互コミュニケーションにより、新たな価値の共創を実現する仕組み」です。わかりやすく解説すると、ユーザーやサービスを提供する人、作る人が相互にコミュニケーションを持続的に行いながら、新しい価値を創出していくことです。サービスデザインを行うときに大切なことは、「THIS IS SERVICE DESIGN DOING(※1)」という書籍で「サービスデザイン思考の6原則」として記されています。



詳細は書籍を読んでいただくとして、これらの原則を私たちの言葉に置き換えて、お客様からの要望にどう落とし込むのか、を問題提起しながら日々活動しています。

フェンリルが考えるサービスデザインとは、「愛されるサービスを作り、広めるための活動」であると捉えています。具体的には、持続的なサービスの提供を行い、顧客視点で開発/運用し、ステークホルダー(サービス提供者/提供側の従業員や関係者/ユーザー)間でコミュニケーションを継続して取りながら作り上げていきます。このような地道な活動を経て、サービスを充実させ、ビジネスにおける目標達成が見えてきます。

たった一度の利用で、ユーザーに愛されるサービスになることは難しく、継続的かつ良質なコミュニケーションが不可欠です。「このサービスでなければ」という感情は、機能やコンテンツの独自性によるものだけでなく、サービスの背景にあるストーリーや運営者のパーソナリティ、一貫性のあるメッセージ、魅力的なクリエイティブなど、あらゆる要素が複雑に絡み合って構成されています。

提供者の都合や、一方的な働きかけでユーザーの感情をコントロールすることは難しく、ユーザーも望んでいないでしょう。「愛される」というのは結果であって、強要することはできないのです。提供者にできることは、「ユーザーを理解し、サービスの価値を高め、タッチポイントで価値をどのように伝えるか」を突き詰めることです。

フェンリルとサービスデザイン

フェンリルにおけるサービスデザインの歴史を紐解くために、20年ほど遡ります。代表的なプロダクトであるウェブブラウザ『Sleipnir』、その開発と運用の経験こそ、私たちのサービスデザインの原点です。

さまざまなデバイスのプラットフォームが統合されるという動きが加速したことで、GoogleやAppleのブラウザシェア率が高まっていますが、今でも多くのユーザーの方に愛され、継続してご利用いただいています。

Sleipnirにおけるユーザーとの対話の積み重ねは、フェンリルのサービスデザイン思考の根幹となっています。共同開発という領域で膨大な知⾒や技術をさらに積み重ねたことで、日々進化を続けています。

上記のノウハウを一つのフレームワークとして可視化したものが、「フェンリルサービスデザインフレームワーク」です。このフレームワークは、「ビジネス価値とユーザー(利用者および顧客)価値の双方を満たすサービスを持続的に提供する」ためのものです。



ユーザーとサービス提供者間のコミュニケーションを通じ、上記の5つの要素(フェンリルでは『5x』と呼んでいます。)において最良のUXを実現します。これらの要素の意義と関係性を理解し、一つ一つ実践していくことが、愛されるサービスを生む近道であると考えています。

ユーザーは、サービスに関するさまざまな知覚情報を日々受け取っています。サービスを使った感触や操作性から受ける満足感はもちろん、実際に使用しているサービスに関するポジティブなニュースや口コミを見たときの気持ちもUXに含まれます。例えば、電車で隣り合わせた人が、偶然同じアプリを使っていたときに、「共感」や「使いやすさ」といった知覚情報の累積がサービスにおける体験としてユーザーに記憶され、ポジティブなイメージが醸成されます。

つまり、プロモーションやブランディングを通じて、ターゲットにプロダクトの価値を正しく伝えることが、利用することと同じくらいUXに影響を及ぼすことだと理解する必要があります。ユーザーに一貫した体験を提供するためには、「作ること」と「伝えること」を同時並行で考えなければなりません。

ここで、サービスデザインフレームワークを活用していくための、大まかなステップを先にご紹介します。詳細については読み進めていただければと思います。

01.ビジネスの目的を明らかにする
02.サービスの提供分野/カテゴリーを検討する
03.その分野におけるユーザーの価値観や体験を調査/分析する
04.サービスの概要を検討する
05.サービスのビジネス価値を検討する
06.サービスのコンセプトを検証する
07.サービスのプロトタイプを作成/検証する
08.ユーザー側と提供側のインタラクションを整理する
09.ユーザーとのコミュニケーションプランを検討する
10.システムを開発する
11.システムを検証する
12.サービスを広める/ファンを作る施策を展開する
13.価値が向上しているか検証する

提供するサービスのコンセプト

「ユーザーが使う理由」と「ビジネスとしてやる意義」の2つを満たすものが、「提供するサービスのコンセプト」です。



サービスの提供によって、どのようなビジネス価値を得られるかを明らかにするのが「ビジネス」の部分です。収益を上げることはもちろん、長期的な観点でどのような世界を作り上げることを目標にするのか、それによってどのようなビジョンを達成するのか、などさまざまな視点でサービス全体のビジネスゴールを明確にします。

そして、サービスによってユーザーはどのような価値を得られるかを明らかにするのが、「ユーザー」の部分です。ユーザーのライフスタイルや嗜好、価値観を調査、分析しユーザーが求めている価値を明確にします。

この「ビジネス」と「ユーザー」の接点にあるのが、サービスコンセプトです。言い換えれば、サービスのコンセプトは、ビジネスとユーザーの双方が価値を得られるものでなければならないということです。

ユーザー視点での施策とビジネスロジックの最適化を行き来することで、ユーザー数の増加をビジネス規模の拡大につなげる。

ユーザー数が増加すると、市場規模は拡大し、「ビジネス」の円も大きくなります。ユーザー数を増やすためには、サービス自体の魅力はもちろん、プロモーションやキャンペーンなど、認知を上げていくためのグロース施策が欠かせません。1人あたりのLTV(ライフタイムバリュー/顧客生涯価値)を上げることで、ビジネスの規模の拡大が見込めるため、ビジネス側の価格戦略や営業戦略も重要です。

ただし、マーケティング活動においては当たり前のこれらの戦略や施策も、サービスデザインという観点においては、ユーザー側とビジネス側との密なコミュニケーションを前提に実行していくものです。

そのために、ユーザーのインサイトと自社の強みや市場性、将来性などを多面的に分析し、得られた結果からさまざまなアイディアを創出して検証しなければなりません。ユーザー視点やビジネス視点に偏るのではなく、双方の視点を行き来しながら、最良と思えるサービスを見つけ出すことが重要です。

サービスのUXを決定づける5つの要素

先ほど説明した「ビジネス」と「ユーザー」の下に位置している三角形は、サービスにおけるユーザー体験を分かりやすく分類したものです。ユーザーの体験に影響を及ぼすこれらの要素は互いに結び付きながらバランスを保っています。



コンテンツ/機能は、ピラミッドの頂点に当たる部分です。サービスがユーザーとビジネスの双方にとって価値を満たすものでなければなりません。「ユーザーにとってなくてはならないものなのか」ということを考えていきます。考案したプロダクト案がユニークであるかどうかが重要です。

ユーザビリティは、使いやすさ、わかりやすさにつながる要素です。ユーザーの利用環境や慣れ、文化が異なっていたとしても、サービスに求める価値が同じであれば、全てをターゲットと捉えます。

パフォーマンスは、サービスのスペックであり、信頼性に当たる部分です。デジタルサービスを提供する場合、パフォーマンスに関わる品質は特に重要です。当然のことながら、ユーザーはサービスを使う際に「普通に使える」ことを期待しています。動作速度やレスポンスを早くすることにより、ユーザーの離脱を防ぐことができるかもしれません。その結果、売上や収益にも影響を与える要素となるでしょう。

ブランドは、ユーザー視点におけるサービスの見え方そのものです。サービスのポリシーや各クリエイティブ、背景にあるストーリー、サービスの提供者として関わるスタッフなど、ユーザーが、目にしたり触れたりする要素からユーザーに伝わるサービスの知覚的イメージです。

運営/運用とは、良質な運用が提供されているかが重要なポイントです。ユーザーの利用サイクルに合わせてコンテンツが、アップデートされているのか、提供者の組織的なパフォーマンスが問われる部分となります。

それぞれのステップにおいて、実施するタスクは山のようにありますが、これらのステップの重要性を理解していれば、簡易的に実施したり、端折ったりすることで、期間を短縮することも可能です。
また、検討していくステップは複数の要因間を行き来して考えなければなりません。大事なことは、ユーザーとビジネスの両視点からサービスを考え、要点を踏まえて内容を充実させていくことです。また、サービスについて考える順序は特に指定がなく、実際のユーザー候補や、取り巻くステークホルダーを巻き込み、検証していく必要があります。

冒頭で、「愛されるサービスの対象は従業員やステークホルダーも含む」と述べましたが、提供者自身がサービスにいかに愛を注いでいるかは、確実にユーザーに伝わります。サービスの提供価値とビジネスの成果がはっきりと示されていない場合、担当スタッフのモチベーションを下げる要因にもつながります。まずは、「提供者が、サービスの1番の理解者であること」が重要なのです。

ユーザーの目に触れる運営側の様子は、サービスを提供する組織全体のほんの一部にすぎません。
しかし、その一部を最良のものにしようと思えば、全てがつながっていき、結果的に会社全体を変革しなければならないことでしょう。

愛されるサービスとは

ユーザーとの長期的な関係性を構築するためには、ユーザーと提供者の密なコミュニケーションが必要です。今回は、UXに影響を及ぼす要素を5つに分類したフェンリル独自のフレームワークをご紹介しました。ユーザーと提供者を一心同体とし、「作る」と「広める」を連動させることが「愛されるサービス」への近道であると考えています。

フェンリルでは、クライアントワークとして皆様のサービスデザイン支援を行なっております。詳しくは、フェンリルのService Designをご覧ください。

本記事の執筆者|坪内 陽佑
フェンリル株式会社 デザインセンター 副センター長
ダブルクリック、サイバーコミュニケーションズを経て、フェンリルに入社。フェンリルでは、デザイン部門のマネジメントを行うとともに、サービスデザインの考え方を軸に、さまざまなプロジェクトにおける価値の総和を増大させるべく活動中。HCD-Net 認定人間中心設計専門家。




※1.マーク・スティックドーン|2020.「This is Service Design Doing サービスデザインの実践」.ビー・エヌ・エヌ新社

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