「デジタル戦略」と「アプリ企画」の進め方

セミナーなどを通し、フロー型の情報発信を行ってきたフェンリル。今年から『ナレッジ』というストック型の情報発信をはじめました。「企業活動やパーパスを“自分たちの言葉”できちんと伝えていきたい」「読んでくださった方々には、フェンリルに何かしらの共感をもってもらいたい」。そのような熱い想いで『ナレッジ』をお届けしています。

また、「フェンリルがサポートできること」を分かりやすくお伝えするために、架空のクライアントの課題解決を描いた「DX ケーススタディ」をお届けしています。今回は、B2C 向けに生活雑貨の製造・販売を行う企業における「デジタル戦略の立案」と「アプリの企画」について、フェンリルが支援できる具体的なアプローチをご紹介します。

クライアントが抱える課題

ご依頼に至る背景

クライアントは日用品や生活雑貨の製造・販売を手がける A 社です。ショッピングモールなどを中心に自社ブランドの店舗を出店しているため、一般消費者に対する知名度も高いブランドで、年間の売上高は800億円を超えています。

ブランドのファンと呼べる顧客を獲得して順調に成長してきましたが、ここ数年は売上高も営業利益も横ばいとなり、伸び悩んでいました。その原因の一つが、コロナ禍で店舗での売上が激減したことにあります。

ついには、 EC サイト経由での売り上げが実店舗の売り上げを追い越し、店舗での体験づくりに力を入れていた A 社は新たな出店計画を白紙に戻しました。 デジタル戦略において、競合他社に遅れをとっていたことがコロナ禍で浮き彫りになり(図1)、A 社は EC サイトを始めとしたデジタル活用に注力しようと事業方針を転換しました。

【図1】A社と競合他社の売上高/営業利益の推移
弊社編集部が独自調査を行って作成

DX における課題

デジタル活用への対応が遅れているのは A 社だけではなく、業界全体の課題でもあります。日用品/生活雑貨を始め、商品の魅力を顧客に ”五感” で感じてもらう必要のあるブランドでは、店舗での購買体験向上に注力する傾向があり、 EC サイトや自社アプリなどのデジタル活用は、後回しとされていました。

また、A 社では、社内の「デジタル人材が不足」していることも課題でした。今回ご相談いただいた担当者様は、社内の在庫管理システムの立ち上げや運用を担当する方で、ウェブシステムに関する知見は多少あるものの、一般顧客を対象としたデジタルでの体験づくりに関する知見が全くないと悩んでいました。

さらに、 EC サイトにおける競合との差別化が難しいという、一般消費者向けに日用品を提供するメーカーならではの課題もありました。多くのブランドが、必要最低限の機能を EC サイトに持たせるだけに留まっていて、ブランドならではの体験をユーザーに届けることは実現できていない状況でした。

その結果、 Amazon や楽天など、使いやすさやポイントの還元率などで優れている EC モール経由での商品購入が増え、「ユーザーのデータが取得できない」「EC モールに支払うコストが増える」などの課題が発生していました。

具体的な戦略やアプリのイメージが決まらない

最初にメールでお問い合わせいただいたのは、ウェブサイトのみで展開されている EC サイトをアプリ化したいというご要望でした。
計画中のアプリに関する簡易的な RFP (提案依頼書)には、想定している機能一覧や概要が書かれていましたが、具体的なユーザー像や提供する体験価値などは盛り込まれていません。

また、クライアントに細かくヒアリングしたところ、「EC サイトをアプリ化することで、ユーザーにスムーズにアクセスしてもらえるようになり、売上も伸びるのでは?」という仮説から始まったプロジェクトであることを知りました。

さらに、「最終的な目的は EC での売上拡大だが、実現するためにはどのようなアプローチを取れば良いのか、社内でも意見がまとまっていない。他社のアプリを参考に必要そうな機能を並べただけ」ということも明らかになりました。

サービスデザイン視点からのアドバイス

「アクセスしやすい」というのはアプリが持つ優位性ではありますが、アプリ化しただけではユーザーに使ってもらえるサービスになりません。「こう使って欲しい」という提供側の視点だけではなく、実際に使うユーザー側の視点から「アプリを使うことで得られる価値」を明らかにして、それを届けられる仕組みを考える必要があります。

また、「デジタル戦略でやること = アプリ開発」と短絡的に捉えるのではなく、サービス全体を俯瞰してデジタル戦略を描き、その中でアプリに持たせる役割を検討することが重要になります。

このようにクライアントに説明をしたところ、アプリの機能を具体的に詰める要件定義からのスタートではなく、アプリのあるべき姿を考えるために「デジタル戦略」や「アプリ自体の企画」から考えるプロジェクトへと変わりました。

リアル店舗とデジタル上における経験価値の違い
出所:「生活者モード戦略」佐藤智施 他(2020)を参考に弊社編集部が作成

フェンリルがサポートしたこと

ビジネスにおける要件整理とデジタル戦略の検討

ご要望の背景や現状の課題、アプリの役割として考えていることをプロジェクト関係者にヒアリングするなかで見えてきたことがあります。それは、デジタルのタッチポイントを作って売り上げを増大させるだけではなく、「ファンの方々との関係性を強化したい」という作り手側の想いが込められていることです。

その想いを受けて、単に EC サイトをアプリ化するのではなく、お客様とのタッチポイント強化も目的に加えたアプリをつくる方向で提案をまとめていきました。
また、実店舗と自社 EC サイト間でデータ連携ができていないという課題も判明。ユーザーのさまざまな情報を活用すれば、パーソナライズされたサービスや体験を提供することが可能となるので、顧客管理のデータ統合をデジタル戦略の1つとして提案内容に含めていきました。

「ユーザーを知る」からアプリ企画をスタート

アプリのターゲットは、 A 社の EC サイトを定期的に使ってくれているユーザーになります。まずは Web アンケートで該当するユーザーを募り、アプリのターゲット像に一致する条件の方 10 名に、オンライン会議でインタビューを実施しました。

回答者の多くは、A 社の商品について好意的な印象を持っている一方で、EC サイトの機能や使い勝手については不満を抱えていました。特に、自分が欲しいと感じる商品になかなか辿り着けないという「検索性の課題」や、商品の利用イメージが湧かないという「情報充実度の課題」の2つが、真っ先に解決すべき課題として浮き彫りになりました。

コンセプトを策定する

コンセプトはユーザー調査の結果のみから考えるのではなく、企業として作り上げたい世界や発信したい想いなども入れ込むことが重要になります。しかも、A 社にとって、アプリはユーザーがブランドに触れる一番身近なタッチポイント、いわばブランドの顔となるため、ブランドの持つビジョンや魅力をアプリに盛り込むことが重要です。

このように説明したところ、プロジェクト担当者だけではなく、 A 社のさまざまな部署の人から意見を聞きたいという要望もあり、コンセプト策定のためのワークショップを実施しました。

ワークショップの実施

ワークショップのメリットは、参加したメンバーが主体的に議論やアイデア出しに参加できることです。フェンリル側でワークショップ自体の設計を行い、普段の立場や役職に関係なく発言しやすい雰囲気を作って、半日を使ったワークショップを実施しました。
ユーザー調査にもとづいて作成したペルソナ像を共通認識として持ち、ペルソナが持つ課題や要望を、どのような機能で解決するべきか個人でアイデアを出していきます。さらに、「機能やアイデアがユーザーにどのような価値を提供できるのか?」に立ち戻って考え、それらを同じ価値でグルーピングをしていきます。

グルーピングした価値に対して、ワークショップに参加したメンバーで投票を行ったところ、「店舗に行ったときのような、ワクワクを感じられる価値」というコンセプトに票が集まりました。このアイデアをさらに洗練させて「みんなの最寄り『A 社のブランド名』 アプリ店」というコンセプトで行こう!と話がまとまりました。

企画の具現化とプロトタイピング

コンセプトが固まったあとは、アプリを介してユーザーができること、具体的な利用シーンや機能、アプリの画面デザインなど企画の具現化を行います。デザインと技術のフェンリルとして、最も強みを発揮できるのが、この「具現化」の部分になります。
ホーム画面を含む重要度の高い画面は、ビジュアルデザインをしっかり載せたデザインカンプを作成。後述する受容性評価用の説明に使う画面は、ワイヤーフレーム(線と枠で画面の構成を描いたもの)のみに留めて、スピード優先でプロジェクトを進行しました。

受容性評価

企画したアプリの利用意欲などをターゲットとなるユーザーに聞くことで、コンセプトが受け入れられるか否かを確かめます。開発に入る前にユーザーの印象を聞くことで、企画の手戻りを防ぐ効果があります。
ターゲットに近いユーザー8名にインタビューを実施し、コンセプトや機能に対して概ね受容される結果になりました。しかし、購買履歴にもとづいた商品をレコメンドする機能については、「精度による」「押し付けがましいのは嫌」というネガティブな意見も多かったので、「データ蓄積後に精度を確かめながら開発を進める」という方針に切り替えました。

アプリの要件定義フェーズへ

受容性評価の結果は、 A 社の社内でも好評。「このコンセプトでアプリを開発しよう!」と良い雰囲気のまま要件定義フェーズへと移りました。

現在は、 iOS / Android のアプリを作る前提で要件定義を進行中。また、デジタル戦略の1つとして提案した「顧客管理のデータ活用」ですが、アプリにおける KGI / KSF / KPI といった指標の設計を、 A 社のマーケティング担当者と共同で進めています。

事業戦略から実働までの課題にフェンリルが協力できること
出所:「戦略論とDXの交点」則武譲二 他(2021)を参考に弊社編集部が作成

執筆者からのメッセージ

上記でご説明したような、企画フェーズからの支援を依頼されるケースが増えてきました。本記事を読んでくださる方に、プロジェクトの具体的な進め方をイメージしてもらえるよう、情報量をあえて多めに詰め込みました。

プロジェクトの性質に合わせて、進め方は柔軟に変更できますので、新規サービスの立案やアプリの企画に関して、お気軽にご相談 ください。お付き合いくださりありがとうございました。

本記事の執筆者|松村 聡
フェンリル株式会社 SD 部/プランナー
前職はデジタル系の制作会社で、 Web サービスや IoT プロダクト、展示モックなどの企画や体験設計を経験。
2020年にフェンリル株式会社に入社し、主に新規サービスやアプリの企画業務に従事している。
コンセプト設計、プロジェクト進行における議論や情報の整理、ワークショップ設計などをメインで担当。

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